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X.Alice in Hungerland

 ぐん、ぐん、ぐうん、落ちること落ちること。いつになったらおしまいなんだろう。世界はまっさかさまになり、地面をあたまに落っこちていく。まだ終わりそうにないから、すこし考えてみようじゃない。どちらが天に近くてどちらが地獄に近いかなんてこと、いったい誰が決めたんだろうね?きっととびきりえらい人に違いないよ。だけどね、どんなにえらいからといって、正しいことを言っているとは限らないのさ。これは大事なことだ。アリスったら、ちっとも聞いていやしない。何を考えてるの?コウモリやネコは食べられるのか?それは君次第だろう。


 墜落はとつぜん終わった。アリスはすぐにしゃんと立ち上がって、元気に駆け出す。いったい何をそんなに急いでいるんだい?ああなんだ、そうか、君はお腹が空いているんだね。だけど白ウサギをまるごとなんてお行儀がわるい。ほうら逃げちゃった。って、危なっかしいな、ちゃんと〈毒〉って書いていないか確認しなくちゃ。アリスはあっというまにその不思議な瓶の中身をのみほして、それを放り投げてまた走り出した。下にいる誰かの頭にぶち当たって、そいつが死んだりしたらどうするつもりなんだ?思案投首。目を離しているうちに白ウサギが捕まっちゃった。ブシュブシュ気持ちの悪い音といっしょに、どんどんどんどん血かさは増して、(水かさの水であるべき部分が全部血なんだよ)これ以上書かない方がいいんじゃない?誰だって大人に叱られるのは嫌いだ。僕はほんとうに大嫌いだ。例え二世紀経っても!長い尾話になる。小動物どもの会議をぶち壊したら、どこへ行こうが君の自由だな。


 僕の話がまるで聞こえていないらしいことがはっきりしたので言うけれど、ここは君のためだけにあつらえた饗宴の国なんだぜ。朝も昼も夜も、1342日も、いつだって晩餐会が開かれている。ドードーもイモムシも公爵夫人も豚もチェシャ猫もウカレウサギも帽子屋もネズミもウミガメモドキもグリフォンもトランプのカードも王様も女王陛下もみんな君に食べて欲しいんだ。みんなはじめはそう見えないかもしれないけれど、君に食われるのを待っているんだ。みんな君を待っていた。みんな君の血肉になりたがってる。君が僕を愛すように、僕は君を退屈させない。君のための御伽話を終わらせてなるものか。僕の想像が続く限り、__例え脳漿が枯れようと、僕は君を飢えさせたりはしない。さあ全て喰らい尽くしてみせてくれ。できるものならば!頼むから、どうか出ていかないでくれ。こんなに楽しい棺はない__どこにもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しんと静まり返ったダイニングルームは、そこら中ひどい有様だった。
真鍮の燭台とワインのほとんどが倒され、テーブルクロスは赤いまだら模様になった。それがかつて夢のように真っ白だったことを、もう誰も想像できやしなかった。
 銀食器は四方八方へ吹っ飛び、並べられた皿はどれも無茶苦茶に食い荒らされ、もう誰一人として口のきける登場人物はいなかった。
 
 アリスはテーブルの真ん中に仰向けになっていた。少女は久しい静寂を安らぐように呟いた。
 

 

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