VIII.慟哭
やがて新しい春が来た。ナタリアは十四歳になり、より一段と美しくなった。輝きを放つ雪解け水や梢を揺らすミストラルは、その隅々まで彼女を彩るにふさわしい愛に満ちていた。
俺はナタリアに永遠を誓っていたし、きっと彼女も同じだった。俺たちはいっときだって離れがたかった。俺はもう少し大きくなったら、彼女と一緒に村を出て都会へ行こうと計画していた。
復活節第二主日の夜のことだった。開けっぱなしの窓から、塀を越えて自分を呼ぶ声を聞いた。声の主はすぐにわかったので、両親を起こさないようにしながら急いで外へ出た。
「どうした?今度は何やったんだ」
ナタリアのいちばんの被害者は彼女の母親に違いなかった。聞き分けのない娘の悪事に母親は頭を悩ませた。だからナタリアは、日中どこへもいけないよう部屋へ閉じ込められたり、夜はこうして締め出されるといったお仕置きを食らうことが珍しくなかった。
彼女の母親に以前は抱いていた同情心などとっくに消え失せ、暖炉の燃え滓ほども残っていなかった。自分の人生の終わるときまで俺だけは彼女の絶対的な味方でいてやろうと決めていたから、彼女が望むなら折檻に抗議してやる気でいた。そうでなければ、一晩ベッドを貸してやることだって厭わなかった。
緑青色の一つ目を覆う涙の膜に、深い悲しみと悔悟が刻まれていた。
そのような様子の彼女は想像の中でも見たことがなかったので、俺はすっかり狼狽した。
「泣いてるのか?…本当にどうしちゃったんだ。わけを聞かせてよ」
「ねえ、ジャン、どうしよう__わたし死んじゃうのよ」
彼女がほんとうに深刻な様子でそのような突拍子もないことを言ったので、俺は躊躇わずに吹き出した。
「君が死ぬもんか。誰がそんなこと決めたんだ」
「軍医をしてたルガロアおじさんよ。お祭りのためにこっちへ来て、ずっと宿にいたけど、今日はうちへ来たの。私が健康かどうか診てくれる、なんていうんだもの、私おじさんはなんとなく虫が好かないし、わざわざ診てもらわなくてもいいくらい元気だし、断ったのよ。でもほんとに元気かどうか確かめるんだってしつこいの。仕方ないからいいって言ったわ。そうしたら…そうしたら…そうしたらね___」
ナタリアはそれ以上続けるのが恐ろしいかのように、激しく泣き出した。
彼女でも涙を流すのだということが判明したショックで、俺は世界が半分も暗くなったような気がした。また散々見慣れたかのように思われた女の子の涙が、彼女のものであるというだけで、俺に胸を掻きむしられるような思いをさせていることも明白だった。
そのような状態の彼女を宥める方法など見当もつかず、ただ随分と気骨のない声でなるべく優しく先を促した。
「そうしたら、どうしたんだ、それで?」
俺の頭を最悪の予感がよぎった。
「まさか悪い病気だったのか?」
ナタリアは俺の胸に縋り付き、首に腕を回して泣いていた。